
在庫管理とは

「在庫管理」とは、企業内に存在する原材料・仕掛品・製品などの在庫を、生産や販売などの活動に照らしあわせて、最適な状態・量で供給できるよう管理することをいいます。
「在庫」とは単に販売前の製品や商品のみを意味するわけではありません。将来的に現金化される可能性のあるすべての保有資産を含みます。例えば製造業の場合、以下のようなものが在庫として扱われます。
- ●原材料: 商品を作るための部品や素材(金属や布地など)
- ●仕掛品: 生産プロセスの途中にある加工中の商品(未完成の機械部品など)
- ●完成品: 販売可能な状態に仕上がった商品
- ●補助材料: 必要な付属品や消耗品(パッケージ材料や接着剤など)
在庫管理には、入出庫管理や返品対応、棚卸しなど多岐にわたる業務が含まれます。特に、製造業をはじめとする在庫を多く取り扱う業種では、現場レベルでの在庫精度が、業務全体の効率やコストに直結します。こうした各業務を的確に管理することで、ムダを押さえながら、安定した供給体制を維持できるようになります。
業務 | 内容 |
---|---|
在庫の記録と更新 | 現在の在庫量や商品の入出庫を正確に把握し、記録する。 |
需要予測 | 過去の販売データを分析し、今後の需要を予測する。また、季節商品やセール時期の需要を見越した計画を立てる。 |
発注管理 | 過剰在庫や欠品を防ぐため、適切な発注量を計算する。また、仕入れ先への発注タイミングを決めたり、リードタイムを考慮して発注計画を立てたりする。 |
棚卸し | 定期的に在庫を確認し、帳簿データと突き合わせる。必要に応じて、特定の商品やエリアを3日に1回などのサイクルを決めて確認する場合も。 |
在庫の保管と配置 | 商品の特性に応じて、温度や湿度などの適切な保管方法を検討する。また、入出庫作業がスムーズになるよう倉庫内の配置を設計する。 |
在庫の分析と最適化 | 商品がどれだけ早く売れているか、在庫回転率を分析する。また、売れ残った在庫を特定して割引販売や廃棄処理を行ったり、商品を重要度別に分類して重点的に管理したりする。 |
トラブル対応 | 破損や不良品が発生した場合の適切な処理や、 在庫があわない場合の原因究明と対策の実施。 |
在庫管理の目的と重要性
在庫管理の目的は、適正在庫を保つことです。在庫を保有しすぎれば、不良在庫として無駄なコストが発生します。また、在庫が不足すれば機会損失を生むでしょう。そのため、必要なときに必要な場所へ必要な量を提供できるよう、在庫が過不足なく最小限ある「適正在庫」の維持が大切です。
ここからは在庫管理の重要性について解説します。
過剰在庫を削減できる
適切な在庫管理によって、倉庫内の在庫状況を見える化し、実際の在庫数を正確に把握できるようになります。必要以上の発注を防ぎ、販売期間を逃すリスクや余剰在庫が溜まるリスクを低減します。
また、倉庫スペースが有効活用されることで、不要な保管コストも削減。例えば、在庫を定期的に分類・整理し、売れ残りや滞留在庫を早期に特定すれば、廃棄ロスや値下げ販売のリスクを抑えられます。効果的な保管スペース運用が実現し、倉庫運営にかかる経費削減が期待できます。
業務効率と生産性が向上する
在庫管理を徹底することで、どこに何がどれだけあるかを正確に把握できるようになります。これにより、以下の効率化が実現します。
- ●在庫を探す時間の短縮:倉庫や店舗内での商品の検索が不要になり、作業がスムーズに進む
- ●作業時間の削減:入出庫作業が効率化し、従業員の負担が軽減される
- ●問い合わせへの迅速対応:顧客や社内からの在庫に関する問い合わせにも即座に対応できる
さらに、作業の効率化により従業員の生産性が向上し、人件費や残業代の削減、納品リードタイムの短縮にもつながります。
キャッシュフローがよくなる
在庫は「資産」ではあるものの、現金化されない限り運転資金を圧迫する要因になります。また、在庫の価値は時間の経過とともに減少するため適切な管理が求められます。
例えば、適正在庫の維持によって、不要な在庫保管コストの削減や資金の効率的な運用が可能に。資金繰りがスムーズになり、黒字倒産のリスクが低減します。さらに、販売活動が活性化し売上向上も期待できます。これらは最終的に、企業キャッシュフローの安定につながります。
以下のボタンから、適正在庫の維持に役立つ在庫管理システムの一括資料請求が可能です。システム導入を検討している方はぜひ活用ください。
在庫管理の4原則
効率的な在庫管理を行うための基本的な考え方として、「在庫管理の4原則」があります。これは、在庫管理を正確かつ迅速に行うために重要な4つの視点を示したものです。
- ●在庫の所在がすぐわかる
- ●在庫の数量がすぐわかる
- ●先入先出ができる
- ●異常や変化などのアクションのポイントがすぐ察知できる
この4原則を意識することで、在庫状況の透明性が高まり、ミスやロスを防いだスムーズな管理が実現します。
在庫管理を効率化するために必要な6つの要素
在庫管理の4原則を踏まえたうえで、さらに実務の精度と効率を高めるには、以下のような具体的な手法や分析方法の導入が重要です。それぞれの特徴を詳しく解説します。
- ●ABC分析
- ●在庫回転率
- ●ロケーション管理
- ●先入れ先出し
- ●棚卸し
- ●適切な発注方式
ABC分析
効率的な在庫管理には、在庫の重要度にもとづいた優先順位づけが大切です。特に製造行のような品目数が多く、在庫が多岐にわたる業種では、「ABC分析」によって管理対象を絞り込むことが有効です。
ABC分析では、在庫を売上や出荷量にもとづいて、A・B・Cの3つのカテゴリに分類します。例えば、売上の大部分を占める最重要商品を「A」、次に重要な商品を「B」、低回転の商品を「C」とします。ABC手法により、限られたリソースを利益に直結する商品に集中できるようになります。
ABC分析の詳しい手順や注意点は、以下の記事をご覧ください。
在庫回転率
在庫回転率は、一定期間に在庫が何回入れ替わったかを示す指標です。回転率が高いほど在庫が効率的に利用されている一方、低い場合は売れ残りや廃棄リスクが高まる可能性があります。
ただし、業種によって適正な回転率は異なる点に注意が必要です。例えば製造業では、調達から出荷までのリードタイムが長く、回転率が低めに出る傾向があります。自社の過去データと比較しながら、適正な在庫水準を見極めましょう。
以下の記事では在庫回転率の概要や計算方法について解説しているので、興味のある方は一読ください。
ロケーション管理
ロケーション管理とは、倉庫内の在庫配置を最適化することです。ピッキング作業の効率化に直結します。代表的なロケーション管理方法は以下の3つです。
- ■固定ロケーション
- 特定の商品を常に決めた場所に保管する方法。探しやすさが特徴。
- ■フリーロケーション
- 保管場所を固定せず、空きスペースに在庫を柔軟に配置する方法。在庫効率が向上する。
- ■ダブルトランザクション
- 倉庫内の作業スペースをピッキングエリアとストックエリアに分けて、商品を保管する方法。ピッキング作業の移動距離を短縮できる。
在庫によって管理方法を変えることで、ピッキング時間の短縮が可能です。ロケーション管理の詳細は以下の記事を参考にしてください。
先入れ先出し
先入れ先出しとは、先に入荷したものを優先して出荷・消費する在庫管理の基本的な手法です。食品や医薬品などの期限が設定されている商品はもちろん、部品や原材料など一見期限のない商品にも有効です。
例えば、部品や材料は時間の経過とともに品質が劣化する場合があり、先入れ先出しの徹底によって廃棄や返品リスクを減らせます。また、この手法を導入することで在庫管理が整備され、適正在庫の維持にもつながります。
先入れ先出しの運用方法について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
棚卸し
棚卸しとは、実際に倉庫や店舗にある在庫数を確認し、帳簿上の在庫データと照合・修正する作業です。在庫の実態を正確に把握することで、販売計画や発注判断の精度を高められます。
この作業は誤差の発見や、ロス・盗難・破損などのリスク把握にもつながり、在庫管理の根幹を支える業務の一つです。特に在庫数の多い現場では、棚卸しの効率化が大きな課題となります。
近年では、バーコードスキャンやRFIDによる自動読み取り、棚卸しアプリによる記録の自動化など、テクノロジーによる省力化が進んでいます。正確でスピーディな棚卸しを実現することで、人的ミスの削減や作業時間の短縮が可能です。
以下の記事では、棚卸しの評価方法や在庫差異が起こる原因、改善策についても解説しているので、あわせて参考にしてください。
適切な発注方式
適切な発注は、在庫不足や過剰在庫を回避し、在庫コストの最適化につながります。代表的な発注方式には以下の2つがあります。
- ■定量発注方式
- 在庫量が一定数を下回ったときに、事前に決めた数量を発注する方式。安定した供給が可能。
- ■定期発注方式
- 一定期間ごとに、そのときに必要な在庫量を発注する方式。需要変動に柔軟に対応できる。
自社の業種や商品の特性に応じて最適な方式を選択しましょう。発注方式の詳細については、以下の記事を参考にしてください。
在庫管理のやり方
代表的な在庫管理方法として、「エクセルを活用した在庫管理表の作成」「在庫管理システムやアプリの活用」の2つが挙げられます。それぞれの特徴を紹介します。
管理方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
エクセル | ・既存のPCソフトで対応可能なため、初期費用がほとんどかからない ・自由度が高く、業務にあわせたカスタマイズが可能 ・従業員がエクセルを扱える場合、特別な教育が不要 | ・データ入力や更新が手作業になるため、人的ミスが発生しやすい ・在庫量が増えると管理が複雑化し、効率が低下する ・リアルタイム更新が難しく、在庫状況が遅れがち ・多人数での運用が難しく、同時編集時のデータ整合性に問題が出る |
在庫管理システム・アプリ | ・リアルタイムで在庫を把握できるため正確性が向上する ・入出庫や棚卸しのプロセスを自動化でき、業務効率が高まる ・データ分析やレポート作成機能が充実し、需要予測や戦略立案に役立つ ・複数拠点やチームでの連携がスムーズ | ・ソフトウェア、機器、ライセンス料など導入コストが高くなりやすい ・操作に慣れるためのトレーニングや時間が必要 ・システムの障害や不具合が発生すると、業務が一時停止するリスクがある ・小規模な事業や単純な在庫管理にはコストが見合わない場合も |
エクセルを活用した在庫管理表の作成
エクセルを使用した在庫管理表では、商品名や品番、入庫数、出庫数、在庫数、入出庫の日付などを記録して在庫状況を把握します。エクセルテンプレートや関数の活用により、基本的な在庫管理が可能です。零細企業や中小企業など、本格的な在庫管理システムを必要としない規模の企業に適しています。
在庫管理システムやアプリの活用
在庫管理システムは、在庫情報や入出庫データを一元管理できるツールです。棚卸し機能、在庫分析機能、リアルタイム更新機能などを備え、業務効率化に大きく貢献します。
一方で在庫管理アプリは、個人事業主や小規模ビジネス向けに設計されたものが多く、商品名や在庫数の入力、写真やラベルによる商品管理などの基本機能を備えています。
これらの在庫管理システムやアプリは、現在ではクラウド型が主流です。どこからでも在庫状況を確認・更新できるため、業務の柔軟性やスピードが向上します。
在庫管理の効率化や精度向上を実現したい企業には、在庫管理システムの導入がおすすめです。製造業を含むさまざまな業界別に、適したシステムを比較しているので、ぜひご覧ください。
在庫管理システム導入のメリット
ここでは、在庫管理システムの主な3つのメリットについて解説します。
余剰在庫が少なくなる
在庫管理システムを導入すると、いつでも正確な在庫数や在庫情報の確認が可能です。これにより、必要なときに必要な分だけ発注でき、過剰在庫や欠品のリスクを減らせます。例えば、季節や消費期間のある商品を適切に管理することで、廃棄コストや保管スペースの無駄が削減し、利益率の向上につながります。
在庫状況を即時に把握できる
在庫管理システムの導入により、在庫データが即時で自動更新され、手作業の確認や記録が不要になります。従来は現場で在庫を直接確認したり、手書きで記録したデータを後から入力したりするため、在庫情報にタイムラグが発生していました。
システムを活用すれば、いつでも正確なデータを把握でき、余剰在庫や欠品のリスクを大幅に軽減可能。さらに複数の拠点を一元管理できるため、どの拠点の在庫が不足しているか、どこに空きがあるかを見極めて、効率的な在庫運用が実現します。
人的エラーを防止できる
在庫管理システムでは、ハンディターミナルやスマートデバイスを活用してバーコードを読み取り、データを直接システムに登録します。これにより、手作業での転記ミスや入力ミスのリスクが軽減されます。
特にRFIDを利用したシステムでは、複数の商品を一度に登録できるため、カウントミスやチェック漏れを防止可能。大規模な倉庫の在庫も短時間で正確に確認し、作業時間の短縮と精度の向上を同時に実現します。
在庫管理システム導入のデメリット
在庫管理システムには多くのメリットがありますが、導入にあたっては注意すべき点やデメリットも存在します。ここでは、導入前に把握しておきたい主なデメリットを紹介します。
初期費用やランニングコストがかかる
在庫管理システムは、導入時にソフトウェアの購入費用や初期設定費、必要に応じてハンディターミナル・スキャナーなどの周辺機器費用が発生します。また、クラウド型の場合でも月額利用料やユーザー追加に伴う従量課金があるため、ランニングコストの継続的な負担も考慮が必要です。特に小規模事業者にとっては、コスト面でのハードルが高くなる可能性があります。
運用に慣れるまで時間と教育が必要
新しいシステムを導入した場合、現場の担当者が使いこなせるようになるまでには一定の習熟期間が必要です。操作ミスや入力漏れが起こると、せっかくのシステムも正確に機能しません。そのため、マニュアルの整備や研修の実施など、システム定着に向けたサポート体制を構築する必要があります。
システム障害やトラブル時の業務停止リスクがある
在庫管理システムに障害が発生した場合、在庫情報の確認や入出庫処理が滞るリスクがあります。特にクラウド型システムでは、インターネット環境に依存するため、ネットワークトラブルが業務に直結することも。また、バックアップ体制が不十分だと、万が一のデータ消失に備えられません。安定性やサポート体制も選定時に重視すべきポイントです。
これらのデメリットも踏まえたうえで、導入目的や予算、業務フローとの適合性を十分に検討することが大切です。適切な製品選びができれば、デメリットを最小限に抑え、在庫管理の最適化が実現します。
在庫管理システムの導入メリット・デメリットについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
在庫管理システムの活用ポイント
在庫管理システムの導入効果を最大限に高めるためには、以下の2点を押さえておきましょう。
在庫管理のマニュアル作成とルールの徹底
在庫管理を効率的に運用するためには、具体的なマニュアルやルールの作成が求められます。また、システムの操作手順や日常業務での運用方法にばらつきがあると、データの整合性が保てなくなります。従業員全員がマニュアルやルールを遵守することも重要です。
特に複数拠点で運用する場合、各拠点で異なるルールや手順が採用されていると、データの継続性が失われ、業務全体の効率を損なうリスクがあります。管理方法の統一により、各拠点間の連携がスムーズになりエラーを防止できます。具体的には、以下のポイントを含むマニュアルの用意が効果的です。
- ●商品の入庫・受け取り時に行うべき手順
- ●デバイスの操作方法(バーコードスキャンやRFIDの使用方法など)
- ●問題発生時の連絡・対処フロー
連携性の高い在庫管理システムの導入
在庫管理業務は、調達・販売・会計など、ほかの部門の業務とも密接に関わっています。そのため、在庫管理システムを検討する際は、ほかの管理システムとスムーズに連携できるかどうかが重要です。例えば、以下のようなシステム連携によりデータの一貫性が保たれ、業務全体の効率化や経営判断の迅速化につながります。
- ■調達管理システムとの連携
- 商品を発注・仕入れする際に在庫情報が自動更新されるため、二重入力やデータ重複を防げる。
- ■受注システムやPOSレジとの連携
- 販売データが在庫情報と直結するため、在庫不足の商品を瞬時に把握できる。これにより、追加発注や在庫補充のタイミングを見極めやすくなる。
- ■会計システムとの連携
- 商品の仕入れや販売データを会計システムに反映することで、管理を効率化できる。また、売上データの一元管理により、在庫コストの正確な算出が可能になる。
システムの連携性を重視するなら、クラウド型の在庫管理システムがおすすめです。以下の記事ではクラウド型システムの特徴や機能を比較しているので、ぜひご覧ください。
まとめ
在庫管理を適切に行うと、過剰在庫の削減や生産性の向上につながります。効率的な在庫管理を実現するためには、在庫管理システムの導入がおすすめです。在庫状況の見える化や管理コストの削減、人的ミスの軽減などが期待できます。
在庫管理システムは、製品ごとに得意とする業界や機能も異なるため、一括資料請求を利用して慎重に比較・検討するのが効率的です。どのような製品があるのかを知るためにも、まずは資料請求してみましょう。
