農業における物流の仕組みと主な流れ
ここでは、農作物が生産地から消費地に届くまでの物流の基本的な仕組みと流れについて、解説します。
- ■1.生産地での集荷
- 収穫された農作物は、JA(農協)や個別の物流業者によって各地域の集荷拠点へ運ばれます。最近では、農家自らが出荷場に直接搬入するケースもあります。
- ■2.選別・梱包・出荷準備
- 集荷後、作物は品質やサイズで選別され、破損や品質劣化を防ぐために丁寧に梱包されます。ロット管理やトレーサビリティの仕組みも導入され、食品安全対策にもつながっています。
- ■3. 輸送(一次・二次)
- 一次輸送:生産地から選果場や卸売市場などの中間拠点へ
二次輸送:市場や加工業者、小売店など消費地への配送
輸送には冷蔵トラックなどの専用車両が用いられます。 - ■4.販売・消費地での流通
- 農産物はスーパーや小売店、飲食店などを通じて消費者に届けられます。近年では、インターネット販売や宅配サービスの台頭により、販売ルートが多様化しています。
卸売市場を活用することで、複数の小売店に効率的に供給できるだけでなく、市場での競争原理が働くことで価格の安定化が図れるというメリットもあります。これにより、生産者・流通業者・消費者それぞれにとってバランスの取れた取引が実現しやすくなっています。
農業における流通モデルの進化と多様化
これまで日本の農業における流通は、卸売市場を経由する方法が中心でした。しかし、消費者ニーズの多様化や物流技術の進展により、近年ではさまざまな流通モデルが登場しています。ここでは、農業物流における代表的な流通モデルの変遷と多様化の現状について見ていきましょう。
契約栽培による卸売市場を介さない取引
近年では、企業と農家が直接契約を結ぶ「契約栽培」による流通も広がっています。この方式では、農作物が卸売市場を経由せず、必要な作物を必要な時期に安定して仕入れることが可能です。
契約栽培は、物流の効率化やコスト削減につながるだけでなく、品質の管理や計画的な生産体制の構築にも役立っています。
個人向け直販とインターネット販売の成長
インターネット通販やECサイトの普及により、生産者が個人の消費者に直接販売を行うケースも増加しています。これにより、中間マージンを省いた高利益率の販売が可能になり、農家にとっては安定した収入源となります。
消費者側も、産地直送の新鮮な農産物を手軽に入手できるようになり、双方にとってメリットのある仕組みです。
地産地消を支える地域拠点「道の駅」
地域密着型の販売拠点である「道の駅」も、農業における重要な流通モデルのひとつです。地元の農家から直接仕入れた農産物を販売することで、流通距離を短縮し、鮮度の高い状態で消費者に提供できます。また、地元経済の活性化にもつながり、観光資源としても注目を集める存在です。
農業における物流の課題・問題点
つづいて、農業における物流の課題や問題点を解説します。
燃油価格の変動
農作物を生産地から各流通経路を介して消費者の元へ運ぶために、主にトラックが用いられており、現在の農業物流基盤は、全国的な道路整備によって作られました。しかし、燃油価格の高騰で、農作物をトラックで輸送した際の採算が取りにくくなっています。輸送コストの上昇が、小売店での野菜価格高騰の要因にもつながっています。
ドライバー不足
燃油価格の上昇と同時に進んでいる課題は、物流業界共通の問題でもあるドライバー不足です。少子高齢化と労働環境の悪化により、物流業界は慢性的な人材不足になっています。
さらに、インターネットショッピングの成長に伴い、輸送量が増えたことで、ドライバー1人当たりの負担は増えています。この課題は農業物流にも影響を与えており、輸送コスト上昇の要因の一つです。実際にトラックの確保が難しくなるといった問題にも発展しており、問題が深刻化しています。
農業における物流の課題を解決するポイント
最後に、農業における物流の課題を解決するポイントを解説します。
共同配送によるコスト削減
農業物流の課題は深刻化しており、多くの企業や行政が協力して解決に取り組んでいます。
その代表的な施策が「共同配送」です。これまでは各業者や個人が農作物をトラックで運んでいましが、この配送方法だと小ロットの配送になり、積載率が低く手間がかかります。
そこで、共同配送の仕組みを取り入れることで、複数の生産者の農作物を一台のトラックで集荷できるようになります。物流を集約することで、トラックの台数も少なくなるので、ドライバー不足の解消やコスト削減も可能です。
車以外の配送手段の検討
車以外の配送方法としては「モーダルシフト」があります。これは長距離輸送手段をトラックだけにするのではなく、幹線部分の輸送を船や鉄道に任せるという方法で、トラックと違って排気ガスが少なく一度に大量輸送を行えます。
しかし、今までは鉄道で輸送する際には冷凍コンテナをを利用する必要がありましたが、農作物を冷凍することで、品質が劣化するデメリットがありました。
近年では冷凍せず農作物の鮮度を一定に保てるコンテナが開発され、鉄道での輸送を行いやすくなったため、トラック以外の配送手段として活用され始めました。
物流管理システムの導入による業務効率化
共同配送やモーダルシフトなどの施策と並行して、物流業務を効率化・可視化するための「物流管理システム(WMS)」の導入も進んでいます。
WMSを導入することで、入出荷管理や在庫管理、配送ルートの最適化などが可能となり、現場作業の効率向上や人手不足の緩和にもつながります。
特に農業分野では、収穫期に集中する物流作業をいかにスムーズに行うかが重要であり、システムによる業務の平準化と情報の一元管理が課題解決に役立ちます。
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なお、おすすめの物流管理システムは以下の記事で紹介しています。
まとめ
従来の農業の物流には卸売市場が欠かせない存在でした。新しいビジネスモデルの登場によって農業物流は大きく変化しています。卸売市場を経由しない物流方式も多くあります。
物流業界は燃油価格の変動やドライバー不足などの課題を抱えており、農業にも影響を与えています。このような課題を解決するためには、共同配送やモーダルシフトなど、新しい配送方法の検討が必要です。農業の物流の仕組みと課題を理解し解決策を模索しましょう。